他人の感情をコントロールできる男 第5話

「貴様!神妙にしろ!」
江戸時代の人間のような言葉使いを使うその警官は、この光景を見てすぐさま私を押し倒して羽交い絞めにしてきた。
「てやんでぃ!ござるでござる!」
こいつは本当に警察官なのか?そんなことはもうどうでもよかった。なぜならその時点で私は一切の感情が失われていた。ということはおそらくそこに倒れている男はまだ生きているのだろう。
ガチャッ。手錠をかけられた。遠くからパトカーの音が聴こえる。警官は横で私の顔に唾液をぶっかけながら何かを叫んでいたが、私にはもうどうでもよかった。パトカーに乗る直前、応援にかけつけた他の警官が倒れている男の死亡を確認した。それと同時に私に感情が戻ってきた。当然悔しさはあったものの、私が男を殴り殺したことは完全な事実なわけで、ブタ箱に入ることは確実だった。私はこいつに感情どころか人生をコントロールされたのだ。逆を言えば人生=感情ということなのかもしれない。全てはこいつの掌の上での出来事だった。
                          終わり